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嫁様は魔女

嫁様は魔女

硝子窓(父子の遺伝子)

「貴信?」

母親の声が妙に優しい。

この場のこの状況にまったくそぐわない呼びかけに
オレは返事もできず、うつむいてしまった。

なにがどうなってる?

かあさんと由香子が犬猿の仲なのはわかってる。
今回、山梨に来たのも由香子には不本意だってことも知ってる。

由香子が俺たちの生活に干渉し過ぎないでくれって
かあさんにヒトコト二言言おうと目論んでたのだって知ってる。

・・・けど。

なんだ?

なんで離婚まで話が飛んでる?

しかもどうしてかあさんが言い出す?

由香子に我慢させてもかあさんを優先したはずだ。
オレがかあさんに甘えすぎだと、由香子が怒り出すならわかる。

だけど、どうしてかあさんが怒ってるんだ?

由香子がオレを大事にしていない?
なんでそんな話になってる?

「お前にも帰って来るんだぞ。」

そう言ったオヤジに目をやる。

ソファに力なく座り、おろおろした顔で二人の女の顔を
交互に見比べているオヤジ。

オレもオヤジと同じなんだろう。

由香子のこともかあさんの事も。
ほんとになにもわかってない・・・って言うかわかんねーよ。

言わなくってもわかれ、とか
実はこうこう思ってたのを察してとか
奥歯にものがはさまりまくりの物言いなのに、
自分の思惑通りに考えて動いてくれなんて、できるわけないじゃんか。

はっきり正面切ったら切ったで、どう言うわけだか離婚話にまで飛んでるし。


ついていけない。

ずきんずきんと、こめかみが脈打つ。

いて・・・。

痛いのは頭なのか胸なのか、そんな事しか考えられない。


やめようよ。

こんなの。


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